わたしを／あなたを離さないで？

美しいものだけを貪っている

けがれなき欲望に身を委ねて

美しいものだけを貪っている

罪深き愛のリズムに揺られて

hold my fire, hold my heart

わたしを離さないで  このままずっと

／Have a Nice Day! 『わたしを離さないで』

 カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』を読んだことがない …… けれど

「わたしを離さないで」は、私を没入させるメッセージで、目を眩ませながら大げさに愛を言うことの、持続不可能な美しさ……「このままずっと」なわけない。そもそもハバナイは自ら「ジャンク・ディスコ・バンド」と名乗っているらしく、持続可能なディスコミュージックは存在しないような気も、する。

懇願する相手が、幻想が、わたしを離さないでいてくれるかどうかはわたしが決められることではなく、どこまで行っても苦しい。人とカラオケに行ってこの曲を歌うと、音域の高さもあってかなり必死感が出て、私は執拗に孤独アピールをしてしまっていないか、みたいなことを考える。

だけど私はほんとうにあらゆるものに対して「わたしを離さないで」と思っているような気もかなりする。自分の感情に輪郭を与えるもののことを、それによって助けられる瞬間のことを、共感以外の言葉で説明できるようになればいいとずっと思っている。

あなたが生きる今日に

悲しみは名もなく果てなくて

ここにそれでも生きてるって

（うたがある）

ベイビー

あなたを離さないで

その灯を消さないで

／春ねむり『あなたを離さないで』

「あなたを離さないで」は私をエンパワーするメッセージで、いま受け手として存在する私、のことを強く意識する。死なないでくれ、ということの表現としてすごく力があると思う。「他者 ‖  私ー生」という図式を考えるとき、「死なないで」は「他者→生一般」とも取れるアプローチであるのに対し、「あなたを離さないで」は、「他者→私→生」というアプローチとして響く。「わたしを離さないで」いられるのは私しかおらず、私が離さないでいる（＝生き続ける）限り、「あなたを離さないで」という呼びかけは達成される。望めばいつも「（うたがある）」。

世界に一瞬でも「わたしを離さないで」くれるものがあると盲信し懇願することと、わたしがわたしを離さないと決意し続けることのどちらも必要なときがある、ひとりの私であっても。

と、いうことは簡単だけど、

私が歌を歌うとしたら？

あなたが歌を歌うとしたら？